<場所:富士吉田市-富士山頂 2006年7月28日7時30分スタート>
去年、あまりに他の参加選手との能力の違いを感じさせられたこのレース。1年間、敗北感を背負ってきてリベンジを誓った。でも、あまりにも昨年のゴールが遠すぎたので、目標はあくまでも、去年成し遂げられたかった「五合目時間内通過」。出来るか出来ないかはわからない。信じるのは去年以上にやったと思える練習の成果のみ。
前日、選手受付を済ました私は、去年と違い、当日は直前まで近所に取った宿の部屋にいた。あまり知り合いに会いたくなかった。当たり前のように交わされる「どうですか?今年は上までいけそうですか?」という会話をするのがいやだった。スタート前に「行けないですよ。」というのもいやだったし、さりとてそんな自信も無かったからだ。
それと、今年は去年のような早く並んだ順スタートではない。去年完走した選手は前方スタート。それ以外は後方に並ぶことになっている。ちなみに、この前方スタートできる前年完走者達はゼッケンが3桁以下。我々は1000番以降のゼッケンとなる。(男子の場合)
3桁選手についていけば、完走の確率はあがるということだ。
約スタート20分前に列に並ぶ。昨年は前から2mくらいのほぼ最前列だったので選手宣誓等もよく見えたが、今年は何を言っているのかもわからないくらい遠い。ルールなのだから仕方ないけどね。
さて、いよいよスタート。ぞろぞろと動きだす。スタートライン通過に1分25秒かかった。これが逆ハンデだ。もちろん関門の閉鎖はスタート号砲からのタイム。この1分25秒をどこで取り返すことができるのか。
スタート地点から139号線に入るまでの最初の500mくらいは数少ない平坦なロード。ところが混雑でスピードが出ない。我慢する。
そして左折。正面に富士山。いよいよこいつの向かっての挑戦が本格的に始まるわけだ。
淡々と走る5%傾斜の坂。去年は前方にいたこともあってか、抜かれまくった。今年は後ろからだったせいもあるのか、流れに乗っていけている。精神的にいい。
そして浅間神社を通り、吉田口登山道に入る。
ここであることに気がついた。試走の時は、永遠に続く登り坂を見てうんざりしたものだったが、これだけ選手が道に溢れていると、遠くの傾斜があまり目に入ってこない。へんな雑念みたいなものも消えて、ただ流れに乗っていればいい。
そう、ここでもまだ流れに乗れている。昨年はあきらかに周りよりペースが遅かったのだが、今年は違う。というか、わずかだが他の選手を抜かすこともできる。この精神的な余裕は、最初の給水所である中ノ茶屋までの距離を短く感じさせてくれた。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
40:32(39:06-40:00-43:39)
実はここで初めて時計を見た。おお、スタートのハンデをまずまず取り戻している。1ヶ月くらい前までやっていたここでの試走では43分台だったので初の40分台が出たわけだ。
水を一杯もらって、再スタート。ここから馬返しまでの約3.5kmがこの大会の難所のひとつ。特に後半の1kmくらいが辛い。慣れていないと景色が同じに見えるため、途中で馬返しが近いと勘違いしてしまったりする。しかし、そこからさらに傾斜がきつくなったりするから最悪だ。
できるだけ、まわりのペースに乗れるように進む。「ここは絶対歩かないで走ろう」が完走条件とあらゆる記事に載っている合言葉。ここまで、意外と調子がいいんだから絶対走りきれるはず。
だんだん勾配があがってくる。まだ大丈夫。さらに勾配があがる。まだいけるぞ・・・。
馬返しは、いつも急に現れる。いままで林の中を走っていて急にパァーっと景色が開けるのだ。そして、歩くことを許さない坂が終わった。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
1:07:27(1:06:02-1:08:00-1:13:40)
おお、速いぞ。よくわからないけど、ここまでは教科書どおりのタイムでこれた。さて、ここから第2ステージ。山道を早歩きで進む、いままでとは違うモードにスイッチ。
その前に給水。2杯。さらに持参した空のペットボトルに水をいれてもらう。これらのタイムロスはしょうがない。
去年はこの時点で大きく遅れていた。だからだろう、あまり選手で混み混みした感じがなかったが、今年はちがう。しかし、流れはいいので混雑してペースが乱れるということはない。
今までの経験では、馬返しまでのロード、特に最後の勾配のきついところでがんばってしまうとこの登山道に入った時に、そのしっぺ返しがくる。ボディブローのように効いてきて足が前に出なくなるのだ。
一合目通過
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
1:13:33(1:12:08-1:13:00-1:20:29)
意外と足が止まらない。まだ、周りを抜かす余裕がある。いける時には行こう。いつ何があるかわからない。
二合目通過
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
1:27:59(1:26:34-1:27:00-1:37:28)
今年は足の攣りに対してものすごく意識を持っていた。なにせ去年は最後に足が攣ったことでタイムアウトを決定的にされたからだ。塩の錠剤を用意して定期的に摂った。また、茶屋跡等の平坦部を走る時は、ふくらはぎに変な力が入って攣りを誘発しないように気をつけた。で、去年足が攣ってしゃがみこんだ三合目到着。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
1:37:13(1:35:48-1:35:00-1:47:50)
たぶん、馬返しまでの貯金とこの足のペースだと、いい感じできていると思う。しかし、ラップを取る時以外はほとんど時計をみなかった。というか、頭に○号目を何分に通過するべきかなんて予習していなかったし(馬返しと五合目の時間は覚えていたが)、ここまで予想以上にいい感じがしたので、時計を見るより自分の感覚を大事にしようと思ったのだ。
四合目通過
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
1:46:51(1:45:26-1:49:00-1:58:29)
ここから五合目までが長いのはわかっていた。途中で舗装路に出るのだが、もう出るだろうもう出るだろうと思うのだが、一向にそれが現れないのだ。
ところが、今年は余裕があった。まだ、足は動くし、前の選手を抜くときはススゥーとさらにスピードをあげることができる。3桁ナンバーも時折抜かすことができる。まだ、力が出せる状態を持続できているのだ。いけるこれなら五合目は通過できる。
そしてついに五合目関門。RCのマットを踏む。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
2:06:50(2:05:25-2:09:00-2:21:00)
やった!とりあえず去年の汚点はこれで拭い去った。しかも結構いいタイムだ。ここでも給水・水の補給・バナナ等摂取。そして、大会としては未知の五合目以降に進む。第3ステージへ。
ここからは、試走を1度したきり。その時は、ほんと、ばてばてで五合目から山頂まで3時間近くかかった。あまりに苦しかったのでタイム計測がちゃんとできなかったくらい。
なので、精神的な余裕は全然無かった。まして、頂上云々という気持ちも無かったし、とにかくいけるところまで行ってみようだった。
ブッシュ区間を抜けて砂礫へ。森林限界。ここからは緑はない。あるのは、砂または岩。
また五合目からの登山客と合流するのもここからだ。
足が砂に取られる。登りづらい。でも、それは私だけではない。ペースを周りに合わせて登ろうと思った。ところがまだいけるのか、少しだが、前の選手をパスできる。抜かれるよりは抜く方が気持ちも楽。ここでもいけるところまで行こうと。
そして、岩場の登場。手袋をつける。すごいよなぁ。このコース。とにかく四つんばになって上がる。というか、手を使って登った方が楽だ。多少の混雑はあるが、うまくコースを取って進んだ。
ここらへんからだろうか?頭がクラクラしてきた。上を見るために頭を上げると目まいがする。たぶん酸素不足?これは深呼吸をしても収まらない。水を飲むために、頭をあげるときも同じだ。参ったなぁ。とりあえずここから上は見れなくなった。見たらそのままクラっときて後ろに倒れてしまいそうな気がしたからだ。
岩場が終わるとまた砂礫。風も強くでてくる。たぶん風は冷たいのだろうけど、あまり寒さは感じない。でも、これだけ登っているのに汗ひとつ出てこない。風の音が選手の荒い息の音を掻き消す。
とにかく上を見ないように努めていたので、あとどれくらいで八合目関門なのかもわからない。いやいま七合目なのか八合目なのかもよくわからない。とにかく進むだけ。タイム?どの地点でどんなタイムだったらいいのかも知らないので気にしない。とにかく黙々と目まいに悩まされながら進んだ。
突如出てきたRCのマット。あれここが八合目関門なんだ。通過。おお通過したぞ。あとは頂上だけじゃないか。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
3:45:50(3:44:25-3:55:00-記録なし)
ここまで来たら是が非でも時間内通過したい。時間的には間に合うはず。アクシデントがなければ。しかし、さすがにここら辺から体が重たくなってくる。目まいもひどくなってきた気がする。今鏡を見たら顔面真っ青なんじゃないか?そんな気がするほど顔をあげるとくらくらする。ここらへんから記憶もあまりない。ただ、たしかこの後、九合目といわれるところに白鳥居があって、それを通過して10分ちょっとでゴールのはずだ。
鳥居はどこ?まだ?つづら折の登り坂を繰り返し登るけどなかなかそれが目の前に現れない。ようやく九合目。鳥居到着。
そして、この時、このレース初めて声が出た。「よし!」
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
4:04:47(4:03:22-4:17:00-記録なし)
最後の岩場。もう少しがんばれば全てが終わる。いけるぞ。いけるぞ。いけるぞ。
どれくらい登っただろう、前から声が聞こえる。
「よくがんばった。よくがんばった。もうすぐゴール。あと100m。」
”がんばった”か。うん、よくがんばったよ。ほんとにがんばったと思う。目に涙が溢れる。よしあと100m。山頂前の鳥居も見える。そしてそこをくぐって最後の階段を這いつくばって登る。目の前にゴール。来たぁー。飛び込む。ゴールイン。
グロスタイム(ネットタイム-完走の目安タイム-試走でのベストタイム)
4:17:52(4:16:27-4:29:00-記録なし)
その後、近くの石にしゃがみこむ。終わったという感激を受け入れるより先に体は休息を求めていた。
そして頂上は寒く鳥肌がたつ。持参したビニール袋をかぶるもとても長くいれる所ではない。なにか温かいものでもとも思ったが、食欲もない。ゴールの余韻に浸ることもなく下山を始めることにした。
長い下山道の中で考えた。
正直、今年、頂上まで完走できるとはこれっぽっちも思っていなかった。無欲の勝利と言ってしまえばそれまでだろう。でも、終始、足も呼吸も大丈夫だった。試走の時は何十回も思った「もう止めたい」という気持ちに1度もならなかった。
ランニングを始めて3年くらいになるが、ここのところ1年くらいは、もう練習とかしても伸びないんじゃないだろうか?と思い始めていた。最初の頃は、気持ちのいいくらい結果が出るがここ最近は現状キープがもう精一杯。加齢による能力の低下を防ぐのがせいぜいなのではないだろうかと真剣に考えていた。もう記録とかそういうのを狙うのは止めて、ただ楽しく走るのだけしてればいいんじゃないだろうか?とか。
ところが、確実に今回は成長できた。こんなにもはっきり結果として現れた。やればやっただけの見返りがあったのだ。まだ自分の可能性を信じることができる。まだ終わりでは無かった。これが大きな収穫だった。
この富士登山競走完走という企画、何度掲げたことを悔やんだか。正直、今年五合目通過できなかったら取り下げるつもりだった。理由も用意してあった。
でも、こうやって達成できたことで「富士登山競走完走経験あり」の称号より、もっと大きなものを手に入れられたと思う。
こんな私でもいうことができるんだ。「流した汗は裏切らない」と。
(今回は走った距離というより、流した汗ということで・・)
山頂コース(グロス) 4時間17分52秒
男子総合順位(グロス)1050人中706位
総合順位(グロス)1088人中730位
■追記:各ポイント別順位は以下のとおりでした■
馬返し通過 1081位 通過者 2290人中
五合目通過 947位 時間内通過者 1679人中
八合目通過 790位 時間内通過者 1211人中
ゴール 706位 時間内通過者 1050人中